6.1 機械材料
6.1.1 鉄鋼材料
a. 生産
日本鉄鋼連盟によれば,日本経済は,新型コロナウイルス感染症の影響から持ち直しの動きが続いているものの,感染症の再拡大 やウクライナ情勢に伴う世界経済への影響もあって,先行きは不透明感を強めている.引き続き感染拡大 や原材料価格の高騰等注視が必要となっている.個人消費は感染症再拡大の影響により依然弱含んでいるが,コロナの克服によるその回復が望まれている.経済産業省によれば,2021年の小売業販売額は150兆4,620億円,前年比1.9%の増加で,増加に寄与した業種は燃料小売業,次いで自動車小売業で,飲食料品小売業と燃料小売業を除くと,前年比0.6%の増加した.一方,機械受注は,2020年8月を底に回復が続いている.
鉄鋼業界の動向としては,原料高・製品安の構造継続のもと,国内各社の経営状況は厳しいものとなっている.国内高炉は,2020年4月の日本製鉄(株)と日鉄日新製鋼(株)の合併により,日本製鉄,JFEスチール(株),(株)神戸製鋼所の3社体制となった.日本製鉄が呉製鉄所の全設備休止,JFEスチール京浜製鉄所の上工程休止など,約900万トンの粗鋼生産能力が削減された.
世界の粗鋼生産量は2020年の18億8000万tonから19億5000万tonと3.8%増加した.その中で,中国の粗鋼生産量は10億3300万トン(3.0%減)であった.中国鉄鋼業は,依然として過剰生産能力を抱えたままであり,世界鉄鋼業界の利益逓減リスクは軽減されていない.全世界生産量の50%を占めている.インド経済は高成長率での景気拡大が続いていて,インドの粗鋼生産量は1億2000万tonと17%増加した.2020年に続き我が国を超え,世界第2位の生産である.日本は第3位となった.以下,アメリカ(8580万ton),ロシア(7560万ton),韓国(7060万ton)と続く.
国内の2020年の粗鋼生産量は9630万トンと前年比15.8%の大幅増となった.日本鉄鋼協会によれば,コロナ禍からの経済回復により国内鋼材需給の増加,需給タイト化による価格上昇,海外事業によって,高炉各社は好業績となった.
b. 新設備
鉄鋼需要の急激な減少に対応するため,2021年末時点の稼働高炉数は21基で,2019年末と比較して稼働高炉数は4基減少した.一方,JFEスチールは,西日本製鉄所(倉敷地区)第7連続鋳造機を新規導入した.自動車用鋼板分野では,ますますCO2削減のための軽量化が求められ,高強度化,薄肉化が求められている.日本製鉄はハイテンのせん断成形法を開発し,JFEスチールは連続熱間圧延技術を開発した.神戸製鋼は,加古川製鉄所に,第3溶融亜鉛メッキラインを新設,哕為_始した.
c. 研究
2021年度も2020年度に引き続き,環境・エネルギー, プロセス, 材料分野で公的資金による研究が多く行われている.環境調和製鉄プロセス技術開発(COURSE50)は,CO2排出の抑制とCO2の分離・回収により,CO2排出量を約30%削減する技術を開発に向けて,2018年6月より実用化開発第1段階(フェーズⅡstep1, フェロコークス)に着手し,2021年度も研究継続中である(1).また,日本鉄鋼連盟は,ゼロカーボンスチール」の実現に向けた技長期温暖化対策ヴィジョンを策定した.高炉を用いた水素還元技術の開発が進められた(2020~2021年度,委託先:NEDO).新たに開始されたプロジェクトとしては,製鉄プロセスにおける水素活用プロジェクトが始まった(2021-2030年度,委託先:NEDO).
材料関係では2013年度からスタートした輸送機器のマルチマテリアル化技術開発を⼀体的に推進を目指した革新的構造材料技術開発ISMA(2013-2022)も9年目になり,1500MPa-20%鋼や異種材料の接合など,開発した材料を実用化するための設計技術やマルチマテリアル化技術の開発に注力している(2).
さらに,内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム,SIPプロジェクト二期(革新的新構造材料等研究開発)が2019年度にスタートし,3年目となった.統合型材料開発システムによるマテリアル革命である.第二期は3次元造形と統合型材料開発システムの開発に力点を置き,我が国で開発してきたマテリアルズインテグレーション(MI)の技術基盤を生かし,欲しい性能から材料・プロセスをデザインする逆問題MIに対応した統合型材料開発システムを世界に先駆けて開発を目指している(3).そのほか,「超高圧水素インフラ本格普及技術研究開発事業」(2018~2022年度,「超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト」 (2016~2021年度)の研究,「ミルフィーユ構造の材料科学-新強化原理に基づく 次世代構造材料の創製」(2018~2022年度)も行われている.さらに,「超高圧水素水素インフラ本格普及技術研究開発事業」も進んでいる(2018―2022年度,委託先NEDO).
d. 新技術・製品
FEスチールはCVD(化学気相蒸着)連続浸珪プロセス技術を用い,高周波鉄損の低減と磁束密度の向上を両立した高速モータ用Si傾斜磁性材料『JNRF™』がSteelie award 2020を受賞した.また, JFEスチールは,大入熱溶接が可能な780MPa級厚板を開発した.焼入と制御冷却の活用により低降伏比を実現している.さらに,「革新的雰囲気制御による溶融亜鉛めっき薄鋼板製造技術の開発」が,令和3年度 科学技術分野の文部科学大臣表彰科学技術賞を受した.また,JFEスチールは,冷間プレスによる車体骨格部品で世界最高レベルの強度である1.5GPa級ハイテンのスプリングバック抑制成形工法を開発し,ルーフセンターリンフォースに採用された.
日本製鉄は,開発した環境負荷低減型超ハイテン橋梁ケーブル用線材の製造技術が,科学技術に関する開発,理解増進等において顕著な成果を収めたものの功績を讃える賞である「令和3年度 文部科学大臣表彰 科学技術賞(開発部門)」を受賞した.
2020年に引き続き,構造材料関係の2つの大型国家プロジェクト,ISMA,SIPが並行して行われ,鉄鋼材料にとっては,大変よい環境がつづいている.超高圧水素インフラ本格普及技術研究開発事業も2020年始まり,さらに,「ゼロカーボンスチール」の実現に向けた技術開発」も始まった.鉄鋼関連のプロジェクトは,上記以外にも6つある.鉄鋼業界のカーボンニュートラルという大きな目標に向かって,産官学連携して革新構造材料や鉄鋼プロセス技術の研究開発に取り組む好機がつづくが,責任も大きい.体制・拠点を確固たるものにして,永続的な発展を期待したい.
〔鳥塚 史郎 兵庫県立大学〕
6.1.2 非鉄金属材料
a. アルミニウム
日本アルミニウム協会によると,2021年の箔を除くアルミニウム圧延品の生産量は1,880,308トンで前年比9.4%のプラスと,4年ぶりにプラスとなった.板材の生産量は1,165,351トンで前年比10.5%のプラス,押出材の生産量は714,957トンで前年比7.7%のプラスであった.板材のプラスは,自動車用の増加によるところが大きい.夏場以降は自動車の生産減少によりマイナスが続いているものの,年間では過去最高を記録した.また,板材の約3分の1を占め,最大用途である缶材はコロナの影響で外出機会の減少によりボトル缶はマイナスとなったが,ビール類や低アルコール飲料などの家飲み需要があり,缶材全体ではプラスとなった.押出材のプラスは,住宅着工戸数の回復に加え,板材同様に自動車用の増加によるところが大きい.ダイカストの生産量は905,134トンで前年比10.2%のプラス,鋳物は374,221トンで前年比8.9%のプラスであった.ダイカストは自動車用が799,172トンと前年比8.8%のプラスとなった.鋳物は自動車用が346,255トンと前年比8.3%のプラスとなった.鍛造品は51,254トンで前年比28.5%のプラスで,その内自動車用が37,822トンで前年比31.7%のプラスとなった.電線は29,508トンで前年比12.7%のマイナスとなった.
b. マグネシウム
日本マグネシウム協会によると,2021年の国内マグネシウム需要量は,構造材向けのマグネシウム合金需要量が前年比9.6%増の7,300トン,添加材向けの純マグネシウム需要量が同8.4%増の24,240トン,防食その他向けが同23.0%増の1,230トン,輸出が同37.3%増の140トンとなり,全体では同9.2%増の32,910トンとなった.同年後半に,中国におけるエネルギー抑制政策の影響により原料供給不安,価格高騰という状況になったこともあり,2019年以前の水準までには達しなかったが,新型コロナウイルス感染症の影響を大きく受けた2020年からは回復基調となった.コロナ禍が続いたものの,製造業全体が回復基調になったことにより,マグネシウム合金を使用する構造材向けの需要も回復基調となった.主要なダイカスト部門が前年比10.6%増の5,200トン,射出成形部門が同4.2%増の1,000トン,展伸材部門が同14.3%増の800トンとなり,鋳物部門とその他合金は横ばいでの推移となった.純マグネシウムを使用する添加材向けの需要は,アルミニウム,鉄鋼の需要回復により,アルミ合金添加部門が前年比13.8%増の16,500トン,鉄鋼脱硫部門が同16.7%増の3,500トンとなった.ノジュラー鋳鉄部門,化学・触媒部門はほぼ横合いで,それぞれ同0.8%減の2,500トン,同3.7%減の1,300トンとなり,チタン製錬部門は,航空機分野においてコロナ禍の影響が続いていることもあり同56.0%減の440トンとなった.防食その他は,防食向けの需要が約100トンで,これはほぼ横ばいで推移し,その他の特殊な用途における需要量が増加し前年比23.0%増の1,230トンとなった.輸出は財務省貿易統計の純マグネシウム地金及びマグネシウム合金地金の合計で,前年比37.3%増の140トンとなった.2022年の国内マグネシウム総需要量は,2019年の水準までに回復し,前年比6.4%増の35,000トンとの予測である.
c. 銅
日本伸銅協会の速報によると,2021年の総生産量は前年比20.5%増の776,100トンで4年ぶりに増加した.18年以来の高水準で,上げ幅もリーマンショックからの回復期(32.5%増)に次ぐ大幅上昇だった.品種別では全品種がプラスとなり,特に銅条は過去最高を記録した.2022年度伸銅品需要見通しは,791,800千トン(2021年度比+2.4%)である.
d. チタン
日本チタン協会の金属チタン統計によると,2021年1~9月のチタン展伸材の出荷量は前年同期比16.2%減の8,794トンだった.国内向けは同5.2%減の3,669トン,海外向けは22.6%減の5,125トンで,海外向けのマイナスが大きかった.新型コロナウイルス禍の影響が続いた.ただ四半期ベースでみると,第3四半期(7~9月)は第2四半期(4~6月)比33.7%増となり,回復傾向がみられる.2021年12月の国内チタン展伸材の出荷量は前年同月比43.8%増の1,038トンであり,5ヶ月連続で前年実績を上回った.2022年度のスポンジチタンの値上げ幅は,鉱石の価格上昇,酸化チタンの需要拡大,ウクライナの鉱石の出荷停止により,前年度比30%程度となる予測である.
〔西田 進一 群馬大学〕
6.1.3 無機材料
a. 生産
(一社)日本ファインセラミックス協会(JFCA)が毎年実施している産業動向調査速報値(1)によれば,ファインセラミックス部材の生産総額は2018年に3.2兆円となって3兆円を超え,2019年,2020年に3.1兆円へと減少した.2021年度は持ち直し,3.5兆円を超える見込みである.長期的な展望を見ると,1990年代と比べても生産額は倍増加しており,2018 年以降も3兆円超えている.COVID-19の影響で成長にやや鈍化が見られたが,2021年度はそれを取り戻すことになった形である.内訳を見ると,全生産額の7割を占めている「電磁気・光学用」部材がもっと多く,ついで,「機械的」部材と「熱的・半導体関連」部材がそれぞれ全生産額の1割,さらに「化学,生体・生物・他」部材が全生産額の1割弱となっている.また,「汎用及びその他」は,全生産額の0.1%とわずかである.これらの内訳には基本的にはここ数年大きな変化はない.「電磁気・光学用」部材の生産額については,COVID-19の影響で自動車やスマートフォンの世界生産が大きく割り込む中,半導体関連の需要は増加しているため,全体としては2020度よりも増加した.また,SDGs達成の観点から,設備の耐久性や長寿命化が重視されるようになることが予想される.「機械的」部材や「熱的・半導体関連」部材は,プラスチックや金属からの材料変更が大きなトレンドになる可能性もありうる.
b. 研究
2021年9月に開催された日本機械学会年次大会は,COVD-19の感染対策からweb開催となった.本大会において,「セラミックスおよびセラミックス系複合材料」が企画邌婴丹欤
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